平成24年12月17日(月曜日)
「森の学校復活大作戦」と称し、篠山の自然を取り戻していく取り組みをはじめていますが、その実行委員会(委員長は県立人と自然の博物館の田中哲夫先生)から、市民や行政が取り組む具体策の案を示して頂きました。
今後、この案を議会や市民にお示しして、来年3月までに戦略としてまとめていきます。
示された案では、目標年限を今後30年とし、「市は工事に際し、生物多様性に配慮した計画を立てたり、このような工法を用いることができる技術者を育成します」「市民が身近に行える配慮指針(ひと工夫集)を作成します」「自然再生事業や保全活動への補助金制度」等があげてあります。
なお、なぜ「森の学校」というのかというと、河合雅雄先生の篠山での少年時代を描いた映画「森の学校」から名づけています。そこでは子ども達が田んぼや川や森を泥だらけになりながら駆け回り、自然や生き物とふれあい、のびのびと育つ姿がありました。
概略は次のとおりです。
1、失われてゆく自然と生きもの
ここ50年ほどの間、戦後の経済成長とともに、開発が進み、道路や河川の工事、ほ場整備に代表される農村整備事業などにより、人々の生活は便利になりましたが、こうした事業は、自然環境や生きものの生息条件を考慮されずに実施されてきたため、その結果、私たちの身のまわりの自然の姿は大きく変貌し、生きものの生息環境が奪われ、多くが絶滅したり、その危機に瀕しています。
そのため、自然の山や川で遊ぶ子どもたちの姿を残念ながらすっかり見られなくなっています。
【山林】
スギ、ヒノキなどの植林とともに、人の手が入らなくなり、多くの山が放置されている状況にあります。そこでは、山に光が入らないために下草などの植物が育たず、保水力などの公益的機能も果たせなくなっています。
▲下草が育たず、樹木が目立つ山
【河川】
河道の掘削や直線化、コンクリートの三面張りに代表されるコンクリート護岸や河床、沼や湿地の埋立、堰などにより、生きものにとって大切ななだらかな水辺、瀬や淵、変化に富んだ河原、ヨシ原などが減少し、その生息環境が著しく悪化しています。
▲三面張りされた大きな段差 ▲三面張りされた河川
【農地・水路】
ほ場整備や農業の機械化により、農業の生産性が向上しました。しかし、その反面、ため池や湿地の減少、湿田の乾田化、水路のコンクリート化、U字溝、落差工などにより、生きものの生育、産卵場所が喪失したり、動物の移動経路が分断されるなど、生きものの生息環境が著しく悪化しています。
▲水路に閉じ込められたカエル ▲コンクリートで固められた水路 ▲U字溝
2、篠山市におけるこれまでの取り組み
①子どもたちや地域の取り組み
(1)オヤニラミ:篠山市立村雲小学校
オヤニラミは希少種に指定され、絶滅が心配されているスズキ科の魚です。村雲小学校の子どもたちは、オヤニラミを産卵・ふ化させ、毎日、学校近くの水田でエサとなるミジンコを採取して飼育し、生息地へ放流しました。
▲オヤニラミ ▲田んぼでエサとなるミジンコを採取
(2)オオサンショウウオ:篠山市立城東小学校
▲オオサンショウウオ ▲幼生の放流
(3)ホタル:篠山産業高等学校丹南校・曽地地区・後川地区
篠山産業高等学校丹南校では、昭和62年にホタル研究会を発足し、ホタルの出る時期には草刈りを避けて欲しいと提案したり、毎年、シンポジウムを開くなど、市民に対して河川環境の大切さを発信し続けています。
また、市内では曽地や後川などでもホタルを守る地域をあげた取り組みがみられます。
▲ゲンジボタル ▲丹南校生と地域住民によるホタル鑑賞会
▲曽地地区の看板設置 ▲後川地区の河川勉強会
(4)オオムラサキ:篠山市立篠山小学校
▲オオムラサキ ▲クヌギの植樹
(5)ササユリ:篠山自然の会・ささやまの森公園
▲ササユリ ▲植栽作業
(6)サギソウ:サギソウ保存会・篠山市立今田小学校
▲サギソウ ▲水やり作業
(7)クリンソウ:クリンソウを守る会・篠山市立畑小学校
(8)生きものを育むビオトープ田:真南条上
真南条上では、環境創造型農業を実践するとともに、環境保全のシンボルとなる生きものと共生するビオトープ田を設置しています。
▲真南条上のビオトープ水田
②行政の取り組み
(1)オオサンショウウオ生息保護
兵庫県丹波土木事務所では羽束川やその支流西山川にオオサンショウウオ用のスロープを設置して上流と下流の連続性を保ったり、西山川で繁殖用に人工巣穴を設置して生息地を保全しています。
▲羽束川のスロープ ▲西山川の人工巣穴
(2)武庫川上流人と自然の川づくり
武庫川の上流には、オグラコウホネ、トゲナベブタムシなどの多くの希少種が生息しており、それに配慮しながら河川の改修工事を進めています。河床や護岸にコンクリートを用いないことはもちろんのこと、採掘前の表土を埋め戻すなどの配慮が重ねられています。
▲工事直後 ▲1年後
(3)魚道の設置
(4)野生動物育成林整備
集落等に隣接した森林のすそ野を帯状に伐採して、人と野生動物の棲み分けゾーン(バッファゾーン)を設けたり、森林の奥地では植生保護柵を設置して野生動物の餌となるドングリなど実のなる広葉樹資源の保全を行っています。
▲川阪地区(バッファゾーン) ▲下筱見地区(バッファゾーン)
(5)篠山城跡の堀の整備・清掃
3、生物多様性ささやま戦略の策定とその方針
【目標】
未来につなごう「篠山の美しい自然と生き物」
【具体的な進め方】
[1]生きものの生息環境の保全
(1)山林
奥地にある自然林には極力、手を入れず、適正な保護を図ります。
人工林は積極的に間伐を進めるとともに、部分伐採した跡地には、コナラやシバグリなどの広葉樹を植栽します。
(2)河川・水辺環境
川や水路、湿地などは、多様な生きものの貴重な生息空間であり、魚道などを含め、連続した水系となるよう整備に努めます。
整備に際しては、コンクリート・ブロックなどの使用を抑え、木や石、土、地域の風土にあった植生など、自然の素材をできるだけ活用するとともに、やむをえずコンクリートなどを使用する場合であっても表面処理の工夫、覆土などの工夫を行うなど、生息環境を復元して、生態系に配慮した取り組みをします。
さらに、三面張りの解消、段差工の改良、河川と河川のつながりの確保、魚やホタルなど生きものの生育できる瀬や淵の確保、子どもが遊べる川辺づくりに取り組みます。
▲篠山川 ▲武庫川 ▲自然石の水際護岸と法面緑化
(3)農地・水路
農業農村整備事業は、平成13年の土地改良法の改正により「環境との調和を配慮すること」となり、各地でその試みが始まったところです。環境配慮型工法を導入し、農の営みと生きものの生息が両立する生態系保全型の整備に転換し、この取り組みを続けることで失われた農村の自然環境を取り戻していきます。
水路については、コンクリート・ブロックなどの使用を抑え、木や石、土、地域の風土にあった植生など、自然の素材をできるだけ活用します。用水路など、やむをえずコンクリートなどを使用する場合でも表面処理の工夫、高さの工夫、たまり場や生物脱出用のスロープ、転落防止のふた掛けなどの配慮をします。
さらに、落差工の解消やコンクリートの護岸を石積みにしたり、コンクリートの河床を木杭や蛇かごを配置するなど復元していきます。
また、ふゆみず田んぼ(冬期湛水田)で、冬期に作付しない田んぼに水を張ったり、耕作放棄田を整備して水を張る田んぼビオトープを推進して少なくなった水辺の生きもののすみ場所を確保していきます。
▲片側は自然護岸、片側は石積みによる水路 ▲木杭による水路
▲ふゆみず田んぼ(冬期湛水田) ▲田んぼビオトープ
(4)重要地域や希少種生息地域の選定と保全
[2] 野生生物の保護・管理
(1)野生鳥獣の適切な管理
(2)外来生物の駆除
[3]自然環境に配慮した農業の推進
草刈りや水路の泥上げなど農業を営むうえで欠かせない活動に際しても、生きものの生息環境に配慮します。
[4] 環境教育・環境学習機会の充実
4、戦略の進め方
①期間
今後、30年間を目標とし、達成できるよう取り組む
②市の推進体制
(1)「森の学校推進委員会(仮称)」の設置
篠山市において「森の学校推進委員会(仮称)」を設け、戦略を進めます。
(2)生物多様性アドバイザー
市は、生物多様性に関して専門的な知見を有するアドバイザーを選任し、本戦略の推進に関する助言を受けることとします。
(3)工事担当技術者の育成
市は、工事に際し生物多様性に配慮した計画を立てたり、工法等を用いることができる技術者を育成します。
(4)生物多様性配慮指針の作成
市は、市民が生き物の生息環境を保全するため、身近に行える配慮指針(わたしたちのひと工夫集)を作成します。
(5)自然再生事業や補助金制度の創設
市は、自然再生を図る事業に積極的に取り組むとともに、生物多様性を保全するために活動している市民等の団体を支援するため、必要な経費を助成する補助金制度を創設します。
(6)生物多様性に関する普及啓発
③市民の役割
日常生活の中で、生物多様性がどのように役立っているか、また、人が生物多様性とどのように関わっているかについて理解を深めつつ、積極的に実践します。